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写真で食っていくためのノウハウ、風景写真のテクニックなど紹介します。

岩城文雄 写真展「△」@エプサイト新宿

奥さんを撮影していくシリーズで連想したのが、妻を撮ること(中村 泰介・2009年)もう、家に帰ろう(藤代 冥砂・2004年)でした。これらは柔らかなビジュアルの連続から想起される永遠性を感じましたが、それぞれ出版されてから月日が経ち、デジタルカメラとネットで業界や生活が大きく変わっていきました。今となってはそろそろパターンの1つとしてカテゴライズなのかもしれません。でも、岩城 文雄写真展「△」はそんな固定概念を一転した写真展、展示は4月26日(水)14:00で終了になってしまうのですが、ほんとに微力ながらも拡散したい内容です。

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岩城 文雄写真展「△」@エプサイト新宿

岩城 文雄写真展「△」@エプサイト新宿

先に挙げた奥さんを撮影していくシリーズは旅行先や普段の生活など、様々な場所でそこで起こったイベントと喜怒哀楽が映されています。一方、「△」は自宅というごく限定されたエリアだけで撮影され、多くは無表情です。写真から着飾った奥さんをきれいに撮ろうという意思はまったく感じられません。でも、もっとも近くいる存在の撮影していく行為は、鏡に向かってカメラを向けることと同じ。素の自分をさらけ出そうという試みです。

自分探しの旅といった言葉に集約されるように、若さは距離に希望を託します。でも年齢を重ねると遠くに行ったところでそこで自分は見つからないことに気づきますが、偶然そこに自分のが重なったのかもしれません。「△」が共感できるのは特に大きなカメラを持ち歩いている人たちなのかも知れませんし、彼らに向けたメッセージなのかも知れません。いくら写しても何も写らないという葛藤は長年のテーマと言えます。

写真展に珍しく作家プロフィールがありませんでした。先入観をなく作品を見て欲しいという意図と思って、いろいろ聞き入ることは避けました。これは勝手な想像ですが写真フォーマットがいくつかあったことからいろんなカメラを持っていて沢山撮り続けているのだろう。時折、見切れている暗室用品がある。など、すべてを明かされずに連想するストーリーがあります。

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会場で写真集を買いサインを入れて欲しいことを伝え、岩城 文雄氏が写真集パッケージを時間をかけて丁寧に開封します。その行為だけで人間性を感じるのですが、サインを入れ終えた直後に表紙に分からないくらいの汚れに気づきます。ぼくは構わないと言ったものの、新たにパッケージを開封し改めてサインを入れもらうというアクシデントがありました。写真集で作品を知る機会は沢山ありますが、会場を訪れてこそ経験することは作家の人間性が作品に絡み合っていくことです。

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2冊目にサインを入れてもらう

岩城 文雄写真展「△」@エプサイト新宿

この部屋の中だけで彼女を撮ろうと決めてから6年あまりがすぎた。実際の景色も写されて写真となったものも視覚によって認識されることで常に歪曲される。見ることが背負った病がすり替えたものは、真ではないし贋でもない。おいそれと言葉に置きかえることもできない。ほんとうは何を見ていたのだろう、と振り返る。そして、やっぱり見えていないことを自覚してもう一度撮る。それを繰り返すことで、ようやく撮ることができるようになるのかもしれない。いっしょに行こう、この反復が尽きるまで。

  • 2018年4月13日(金)~2018年4月26日(木)
  • 10:30~18:00(最終日は14:00まで)
  • エプサイト
  • 東京都新宿区西新宿2-1-1 新宿三井ビル1階
  • 03-3345-9881

www.epson.jp


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