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写真展「ピアニシモ」物質性・身体性・空間性 コロナ下で開催するリアル展示の意義

写真展「ピアニシモ」終了の報告とお礼 に続いて、コロナ下で開催するリアル展示の意義について。正確には意義というカッコいいものではなく個人的な視点で列挙するからそれに頷くかどうかは各自判断して欲しいといったものです。まず時事性は言うまでもないのであえて言及しません。ここでは物質性身体性空間性という事でWEBなどオンラインでなく、リアル展示だからこそ表現できる点を書いていきます。

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写真展「ピアニシモ」物質性・身体性・空間性



写真展「ピアニシモ」物質性・身体性 コロナ下で開催するリアル展示の意義

過去10年を振り返るとWEBやSNSによって、紙にプリントにしなくとも写真による表現コミュニケーションが成り立つようになっていきました。

そのせいか印刷が特別な行為になり「紙にこだわっています!」といった主張を見かける事がありますが、制作者のこだわった部分が見る側にどれだけ伝わっているのでしょうか。様々なペーパーである程度のプリントを経験すると発色や再現性など想像できてしまうものでもあります。日本はカメラ大国ゆえに作例文化が先行し即物的なものを評価した結果、表現において後進国となった不幸に重なるように思えてなりません。

もちろん様々な立場や制作の方向性があるし、中には写真の絵柄より紙のテクスチャー立体性に制作意図を向けられている作品もあります。

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写真の絵柄・紙のテクスチャー・紙の立体性


作品の物質性・身体性

私が今回の展示で意図した事は以下の4点です。

  1. 時事性
  2. 物質性
  3. 身体性
  4. 空間性


時事性はあえて説明することもなくオンライン発表でも代替できるので、【1】物質性・【2】身体性・【3】空間性について書いていきます。


コロナ下で開催するリアル展示の意義【1】物質性

まず、フォトグラムインスタントフィルムという複製できないものをコピーの容易なデジタルデータと対に扱った事です。

加えて、再生や循環などかつてをくみ上げる行為として期限切れのフィルム(フジフイルム アクロス100)を使った事と、10年前に使用期限が切れたインスタントフィルム(フジフイルム FP-100)を併せて使いました。インスタントフィルムは10枚撮りのピールアパートフィルムで1点のみ存在することと経年で固着した現像ムラはその時間を語るような表情を見せます。

デジタルネイティブの年代から「何の(デジタル)フィルターですか?」という質問が多かったのも事実です。カメラ内エフェクトやデジタルフィルターではなく、ストレートに撮影をした結果、表層下にあった時間を現像行為によって拾い上げました。

会場には現像ムラ感光写真不整合なエラーが点在します。2020年はエラーとどのように付き合うかといった1年でしたが、動植物は常に環境の中で生かされるもので、エラーという事象をどのように解釈するかという人間的思考や対応を試されている1年でもありました。

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使用期限の切れたインスタントフィルム

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使用期限:2010年2月(フジフイルム FP-100B45)


続いて、平面(紙)である写真を立体にする試みです。
制作において対(対極)にすることを常に心がけていました。一般的にイメージする「綿毛=柔らかい・儚い、と目にもかけられない雑草」を突き放して存在感の塊にすることはできないだろうかという意図で印画紙を木片で包み込むことで立体(厚みのある写真)にしました。

元々持っているイメージと目の前にあるものが離れていればその離れた分だけ、広い可能性が含まれるのではないかという制作の仮説です。ふさぎ込みがちな時は視野が狭くなっているものでその視野を広げるきっかけにすることは出来ないだろうかという発想です。



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側面に注目している人

更に、展示の一部に使った木製額は、植田正治美術館で使われているもの意識して制作しました。絵柄と共にフレームまでオマージュをする試みで、一定数の方がこれに気づき反応していました。

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絵柄・フレーム共に植田正治のオマージュ

コロナ下で開催するリアル展示の意義【2】身体性

身体性のひとつは先の記事に挙げたよう、覗き込んだりすることです。

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じっくりと見る人は側面・下からしゃがんでいました



身体性は覗き込む・しゃがむとといった動作に加えて、鑑賞距離によって変化し連動する視覚情報の変化です。
例えば、会場の入り口から正面にある2枚ですが、遠くから見た時の印象、近くで見る時にある発見。それぞれの情報が異なります。これは高解像の画像をWEBに掲載したからといって再現できるものではありません。

また、一見デザイン的に見えるものが近づいてみると、生々しい生命感に気づく写実的要素のあるものをセレクトの中に加えています。

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会場入り口から正面にある作品

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覗き込んで発見すること。鑑賞距離による情報の変化。


コロナ下で開催するリアル展示の意義【3】空間性

空間性は大きく2点あります。ひとつは会場を暗い空間、明るい空間に分けそれぞれにテーマを設けたことです。

  • 暗い空間:会場に入ってすぐに暗い空間にしました。これは突然やってきた見通しの付かない社会を再現していることと、私が緊急事態宣言下で行っていたやっていた暗室の研究・観察をイメージしました。移転統合となった銀座で使われていたスポット照明を使わせてもらい、できるだけ少ない数に使用を留めています。1枚ずつしっかりと照らすのではなくあえて違和感を感じるような照明ムラを作り、箇所によっては不足させています。
  • 明るい空間:こちらは普段ギャラリーで使っている照明ですが、暗い空間を作ることで対照的に際立って明るい空間になりました。暗い空間で目が馴染み1歩入った瞬間に強い眩しささえ感じ、立ち眩みに近い感覚だったという人もいました。緊急事態宣言下の自粛生活で誰もがかつて当たり前に過ごしていた日常を眩しく振り返っていた事に例えた空間です。

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暗い空間・明るい空間



空間性のもうひとつは音楽です。
展示開催のぎりぎりに出会った音源を聞こえないくらいのわずかな音量に調整して会場音楽としました。Perspective “視座”(koji itoyama)というタイトルですが、展示作品にマッチしているというか、展示のために作ってくれたとさえ勘違いしてしまうほどです。それもやはりコロナ禍で様々な価値観が揺らいだことが、楽曲制作の一部になっているそうです。

ノイズ環境音を副音として取り入れながら時にそれが骨格として聞こえてくる感覚が、普段視界ににすら入らない雑草である綿毛をモチーフにした点と重なりました。

アルバムのタイトルは「Perspective "視座"」。Perspectiveとは「ものの見方」や「視点」という意味ですが、もっと正確にニュアンスを訳すと「あなたがどういう種類の人か、またあなたがどういつ経験を積んだかによって影響される何かについての一つの考え方」といった感じ。つまり、「この作品はあなたがどういう人かによって聴こえ方が違いますよ(違うといいな)」といったところです。

タイトルの由来はいろいろですが、環境問題やコロナ禍、自分の中でのこれまでの常識がいかに無根拠であったかを突きつけられたこと、それによって物事の見方がガラッと変わったことがあって、そういった生活の中での歪みみたいなものが現れた音楽が自然とできたことが1番です。

多くの曲でノイズやフィールドレコーディングを使っており、いろんな角度からいろんな音が通り過ぎていきます。あくまで主旋律はピアノでありながら、人によって、それぞれの聴く環境や個性によって[主役]と感じる音が違い、結果的に違って聴こえる。つまり、聴く人によってこのアルバムが違って聴こえるようなことを期待しています。

>> Perspective というアルバムをリリースしました

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Perspective "視座" koji itoyama

Perspective “視座"

Perspective “視座"

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そして、こちらは蛇足かつこじつけです。
このCDに両足院 副住職のコメントが添えられていました。

その両足院で11月に現代美術家・杉本博司「日々是荒日」の展示を行うのですが、これが偶然にもCameraless Photographyによる展示ということで更なる親近感を覚えました。(勝手な思い込み)

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Cameraless Photography (V&a Photography Library)


コロナ下で開催するリアル展示の意義【最後に】山本春花氏のコメント

一貫して制作を続けられている方に見て評価してもらえるのは喜ばしい限りです。限りある文字数の中に総じて紹介をしていただきました。




コロナ下で開催するリアル展示の意義とドヤ顔で書いたものの、コロナ下で開催する~の部分を書けていませんね・・(結構な文字数になったのでそれはまたの機会に。)


写真の詳細まで分かりませんが、展示の雰囲気の分かるYouTube解説動画はこちらです。
併せてご覧ください。

youtu.be



muto.photowork.jp

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